- 2026年8月31日
「蘭」と「たんぽぽ」

「ちょっとした音や光、周りの視線にすぐに疲れてしまう」 「同じ環境にいるのに、自分だけが深く傷ついている気がする」
日々の診察の中で、このような生きづらさをご相談いただくことがよくあります。
心理学や発達小児科学の世界では、人の「刺激に対する敏感さ」や「ストレスへの強さ」の違いを、2種類の花に例えて説明することがあります。今回は小児科医のトマス・ボイス博士らが提唱した「ランとタンポポ」についてご紹介したいと思います。
人の「こころのセンサー」には2つのタイプがある
ボイス博士らは、長年の研究から、人のストレスに対する反応には生まれつき大きなタイプ分けがあることを突き止めました。
- タンポポタイプ(全体の約7〜8割) アスファルトの隙間からでもたくましく芽を出すタンポポのように、どんな環境でも上手に適応して生きていけるタイプです。多少のストレスや環境の変化があっても、大きな影響を受けにくい強さを持っています。
- ラン(蘭)タイプ(全体の約1〜2割) 温室で大切に育てられて美しい花を咲かせるランのように、周囲の刺激をとても敏感にキャッチするタイプです。音、光、他人の機嫌や雰囲気などを深く受け止めるため、ストレスが多い場所ではすぐに疲れたり傷ついたりしてしまいます。
「デリケートさ」は弱さではなく、「感受性の豊かさ」
「タンポポのようにたくましくなれない自分は弱いんじゃないか」と責めてしまう方がいらっしゃいますが、決してそんなことはありません。
近年の研究では、ランタイプの持つ敏感さは「単なる弱点」ではなく、「環境からの影響を良くも悪くも大きく受ける特別な性質」だと考えられています。
- 刺激が強く過酷な場所: ストレスを過剰に受け止めてしまい、不安や気分の落ち込みにつながりやすい。
- 安心できる穏やかな場所: 豊かな感性、深い考え、人の気持ちに寄り添う優しさなど、素晴らしい才能をフルに発揮できる。
ランタイプの方はこころのセンサーの受信感度がとても高く、これは脳や神経の生まれ持った特徴であり、本人の努力不足や甘えではありません。
ランタイプの方が自分らしく過ごすためのヒント
もしご自身やご家族が「ランタイプかもしれない」と思ったら、タンポポになろうと無理をする必要はありません。大事なのは「自分に合った温室を整えること」です。
- 静かな「ひとりの時間」をつくる たくさんの刺激を受けると脳が疲れてしまいます。静かな部屋で過ごす、ノイズキャンセリングイヤホンを使うなど、刺激を遮断する時間を意識的に持ちましょう。
- 「感じる力」を自分の強みとして認める 生きづらさを感じる一方で、人一倍アートに感動できたり、細かい変化に気づけたりする素敵な一面を持っています。
- 安心できる場所や人間関係を選ぶ ありのままの自分を出せる場所をひとつでも多く確保することが、こころの安定につながります。
おわりに
当院を開院するにあたり、大切に育てられてきた胡蝶蘭をたくさんいただきました。
開院から1か月たち、花が落ち始めてきたので、根元でカットし、翌年また花を咲かせてくれるように株を休ませることにしました。温度管理や湿度管理など慎重にならないといけませんが、また美しい花が咲くように大切に育てたいと思っています。