- 2026年8月17日
- 2026年8月31日
いくら食べても満たされない
詩人の高村光太郎さんは、妻・智恵子さんとの暮らしを描いた『智恵子抄』の中で、こんな詩を残しています。
智恵子のつくるスープは
いつも温かくて、
わたしの胃袋をほんのりと満たす。
その満腹のなかで
わたしは真昼の空を思ひ出す。
(高村光太郎『あぜりあ』より)
温かいスープがお腹にじんわりと広がり、心までぽかぽかと満たされていく……。
本来、私たちが感じる「お腹いっぱい」という感覚は、こんな風にからだも心もやさしく解きほぐしてくれる、幸せなものなのかもしれません。
今のあなたはどんな感覚を抱えていますか?
「しっかり食べたはずなのに、なんだか口寂しい」
「どれだけ食べても満足できなくて、苦しくなるまで食べてしまう」
「もしかして、私の満腹中枢って壊れているのかな……」
そんな風に、止まらない食欲と「満たされない気持ち」の間で、一人で悩んでいないでしょうか。
どうして「満腹感」が消えてしまうのか?
私たちの体の中には、食欲のバランスを保ってくれる、ふたつの大切なホルモンがいます。
- レプチン:脳に「もうお腹いっぱいだよ」と伝えるブレーキ役
- グレリン:脳に「お腹が空いたよ!」と呼びかけるアクセル役
ご飯を食べてお腹が満たされると、体から「レプチン(ブレーキ役)」が分泌されます。それが脳に届くことで、私たちは「ごちそうさま」をして、心がほっと落ち着く満腹感を得られるようになっているのです。
けれど、睡眠不足が続くと、このバランスが崩れて「ブレーキが効かないのに、アクセルが踏みっぱなしの状態」になりやすくなってしまいます。
さらに、疲れた脳は手軽に元気を出そうとして、こってりしたラーメンやスナック菓子、甘いスイーツを強烈に欲しがるようになります。
脂肪があってもお腹が空くのは、脳のアンテナが疲れているから
「でも、お肉や脂肪がついていたら、レプチンは出ているんじゃないの?」と思うかもしれません。
実は、睡眠不足やストレス、偏った食生活が続くと、血中にレプチンはたくさんいるのに、脳の受信アンテナが疲れて麻痺してしまうことがあります(これを「レプチン抵抗性」と呼びます)。
例えるなら、「外では大きな声で『お腹いっぱいだよ!』と叫んでいるのに、お部屋の窓が全部閉まっていて声が聞こえない状態」です。
からだには十分なエネルギーがあるのに、脳は「大変だ、何も届いていない!もっと食べなきゃ!」と勘違いしてしまい、「いくら食べても満足できない」と感じるようになってしまいます。
ほんのり満たされる胃袋を取り戻す、3つのステップ
狂ってしまった食欲のアンテナを整えて、智恵子さんのスープのような「やさしい満腹感」を取り戻すためにはどんなことをしたらいいでしょうか。
① 食欲を我慢する前に、まずは「早く寝る」
我慢して食べる量を減らそうと頑張る前に、今夜はベッドに入る時間を少しだけ早くしてみませんか?
しっかり眠って体を休ませてあげるだけで、減っていたレプチン(ブレーキ役)は少しずつ戻ってきてくれます。
② 朝の光をあびて、夜の心地よい眠りを育てる
朝起きたら、カーテンを開けて太陽の光を浴びてみましょう。
体内時計が心地よくリセットされて、夜にぐっすり眠るための準備が整っていきます。
③ 温かいものを「ゆっくり」味わう
冷たいものや早食いは、胃腸をびっくりさせてしまいます。
湯気が立つスープやお茶をふーふーしながら、一口ずつゆっくり味わうこと。お口を動かす優しい刺激が、脳に「食べているよ」という安心感を届けてくれます。
「食べすぎてしまう」「満腹にならない」と、自分を悲しく責めるのは今日でおしまいにしましょう。
それは、からだが「少し休もうよ」と教えてくれているメッセージです。
今夜は温かい飲み物を一口飲んで、スマホを少し離れた場所に置いて、お風呂でゆっくり深呼吸してみませんか?
体を大切に休ませてあげることが、あなたの心と体に、あの穏やかでやさしい満腹感を連れてきてくれる一番の近道です。